下衆なマニヤの有神論

小説を書き続け(途中絶筆したが)十云年、自分の力が如何程のものか試したい。

【趣味】映画「許された子どもたち」鑑賞!

めずらしく自分が邦画を気になりてよりてみるに。
ということで単館映画系で話題の「許されたこどもたち」を鑑賞してきました!
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http://www.yurusaretakodomotachi.com/
あらすじは、公式が全てです。もうきっちりあらすじを言い切ってくれていますのでそちらをどうぞ。

【鑑賞条件】
◆時間:平日正午
◆客層、男女比:年齢層は高め。男女比5:5くらい、20名くらい入っていた。



さて案の定のネタバレありで・・・・・・と思ったけど
ネタバレなしで言える感想を言っておきたい。


あらすじにもあるとおり、これは同級生を殺した「加害者」の物語である。
で、自分はそのへんの事件性とかは理解しつつも、なによりも感じたのが……

少年たちの爆発しそうなほどの若さ、熱さ!!
内に孕んだあやうさ!!

これ!!これです!!!
なんというか、もう自分がすっかり失ったものをそこに観たというか。
ふつうは見えない衝動や力が具現化されてて正直ものすごく羨ましくなった。
何かに対していらだちを覚えても、それを表出させる術はもう自分にはない。
激しい怒りもなければ突っかかるほどの度胸もない。
後先考えない無謀さも子供ながらのものだと思う。
作中の彼らは犯罪を犯したわけだが、そもそもの若さとエネルギーの爆発がまぶしいと自分は感じた。




そんで、以下からネタバレとかです。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

◆冒頭、血塗れの少年
頬に大きな切り傷を作った少年。流れ出る血が服を濡らし、呆然と歩いてくる。
そこに駆けつけた母親が抱きしめると、少年は幼児返りをしたように親指を吸う。
母親に抱かれる子供の安堵感と、子供を傷つけられまいと守るあまり依存する母親の完成だ。

◆不良少年4人
誰かが一所懸命作った(おそらく地域の学校かなにかが)さまざまなかかしが飾られるのを見た13歳の少年たちは
中でも一番弱い立場の緑夢(ぐりむ)にかかしを壊すよう命令するが、緑夢がよわよわキックを見舞ったことで嘲笑。
こうやるんだよ、とショーンとカミュがボコボコにしはじめるがいまいち本気が出ていない様子。
それを無言で見ている絆星(きら)。
そこに通りがかった小学生(障害がある??)と保護者に見られた瞬間、絆星が動き出し誰よりも荒々しくかかしを蹴り倒し、引き裂く。

このシーンは、絆星が自分の存在や力を誇示するような動作だと感じた。
なぜなら絆星に火がついたのは、見られてからだ。見られなければたぶんグダグダに終わっていた。
自分が危ない人間なんだ、一目置かれるべきなのだという認識が、荒々しい行動に掻き立てている感ある。

◆絆星役上村侑さん
すさまじい眼力!大人と子供のぎりぎりさとかがすごい!
これ言っていいのかわからないんだけど……柳楽優弥みある!
奇しくも柳楽さんも、社会派映画で話題になった方。
演技もすばらしいし、今後がすごく楽しみな俳優さんだ。

◆殺人
とにかく彼らは暇がいやなんだろう。
学校にも社会にも家庭にも不満があって、でも何が不満かというとそれを言葉にできない感じ。
同じクラスの樹(いつき)に割り箸でボウガンを作って持ってこさせ、早速遊び始めるが、ボウガンの矢を回収するのにもたつく緑夢に苛立つ絆星。
なんの考えもなく緑夢にボウガンを向ける。

これ、ここです。
この時の絆星は殺そうと思っている感じは全く無かったと思う。
向けてはいけないものを向けることで、自分の危うさを示したかったのではないか。
そして向けることで狼狽する仲間からの視線に満足していたのではないか。
しかし、そこに樹が出てくる。
樹はいつもつるんでいるメンツでもなく、映画のシーンとしては絆星たちから殴られたりなどがっつりいじめられてはいないが
それでも強引に呼び出されたりする姿はいじめと判断していい。
樹自身はめちゃくちゃイヤだっただろうが、怖いしボウガンづくりなどに従っていた感じがする。
そんな樹が緑夢を守るように立ちふさがったのだ。
絆星の内心の動揺が手に取るようにわかる。
(は? 何してくれてんだ。 お前出てくんなよ)
自分に抵抗などするわけがないと思っていた人間の予想外の行動で襲う突然の不安。しかしそれを悟られれば自分の立場も落ちる。
向けていたボウガンをおろすこともできない絆星は引き金を引いた。

決して殺したいほど憎かったわけではない。
ただ、自分のために絆星は引き金を引いた。それがどんな事になるかなど、考えもしていなかった。
そんな感じの殺人シーンだった。

なんというか、その「引き下がれないからやるしかない」感は自分はものすごく共感できる。(殺すとかではない)
そして、自分の心が揺さぶられる物語の一つの特徴だ。

◆殺したのに
本当に息絶えるまでをみることもなく、少年たちは逃げ出す。
帰宅した絆星は、居間で洗濯物をたたみ始めると 母親がうれしそうに微笑み、一緒にたたみ始める

母親の前ではいい子の絆星。ただそのいい子さも、露骨ではなくとても自然だ。
さっき同級生の命を奪ったのに、そこにいるのは至ってふつうの、家族思いの子供の姿。
そのギャップに、見ている自分はえらい気持ち悪さを感じた。
それはその姿があまりにも自然だったからだ。悪いことをしたと思っている様子もない。
善悪がないのではなく、絆星の中では現実と事件が切り離されている。
その後、母親は家にかえって来ていないという樹くん探しを他の親と一緒にし始める。
そうして、川で亡くなっている樹君が発見される。

◆警察
家にやってきた警察。絆星を前に、証言を迫る。
そうして自分がやったと認めた絆星。
やっと現実の事件と、それを直視しようとしなかった自分がつながった。
ここまでは、犯罪を犯した少年の更正物語でも進められそうな未来が見える。
罪を認め、きっちりと刑を受けてほしい。誰もがそう思っただろう。

◆世間
世間の興味を引いた事件ということもあり、捕まった絆星のいろいろが一気に暴かれていく。
特にネットでの声が大きく、実際の人の声ではなく文字で画面が埋め尽くされていくシーンは、人を糾弾する場面にしてはあまりにも淡々としている。
人の熱を感じないのにその字面は激しいものだ。
ただ、そのコメントにもなんとなく理解を示す自分もいる。
なんとも言えない気持ちになった。

◆母親
家にマスコミが来たり野次馬がきたりと激しいバッシングを受け、両親もホテルに避難することに。
その道中、車の中で母親が「●●くん(失念)と絆星は何も関係ありません!」みたいなのを言うと、女性刑事が怒りの表情で助手席から振り返った。
「樹くんです!」
「え?」
「今回の事件で亡くなったのは樹くんです。被害者の名前も知らないんですか!?」
と怒りと悔しさの混じった表情で言い放つ。
母親は、その樹君探しに行っていたのに、知りもしない。それどころか、自分の息子が犯人だと捕まっている状態なのに。
その後、あからさまなマウントを取りで「あなた、子どもはいるんですか」と母親が反撃。
「そんなの関係あるんですか」と聞く刑事に「あなたにはわからないんですよ、子どもを持つ親の気持ちなんて」と言い放つ母親。
そんなん知らんわ!と言いたくもなるが、過去、頬に傷が残るほどのいじめを受けて血みどろで帰ってきた絆星の姿を冒頭で見ている観客の中に
母親のその言葉を完全否定できる人がどのくらいいるんだろう。

明らかに見ている側は、被害者ではなく加害者の立場に寄った視点でこの映画を見ていると認識させられたシーンだった。

◆演出なのかな?
始め、出てくる飲み物にストローが刺さっていることがやたらと気になった。
それを口にしてチューチュー吸うわけだが、そこにそこはかとない幼児性を感じたのは自分だけなんかなぁ。勘違いかなぁ。
それをするのが子どもだけではなく、母親もだったのが印象に残っている。

◆罪を認めたのに
しかし、取り調べを受ける絆星を待っていたのは、大人の勝手な思惑だ。
「絆星がそんなことをするはずがありません」という母親。
「緑夢くんは、絆星くんが殺したって言ってる。このまま認めると、絆星くん一人だけに罪が着せられることになるんだよ」と言う四宮弁護士(女性)。

ちょっと、これは自分「おいおいおいおい」と心の中でめっちゃつっこんだ。
母親の気持ちは理解できるとして……弁護士は、そんな緑夢の名前出して大丈夫なんか?と。緑夢を保護する気持ちゼロやん。
ーーとシーンを思い返してたら、四宮弁護士と同席してた弁護士仲間がどん引きしてたな。
あの人完全に(それ言う!? 言っていいの!?)ていう雰囲気だったから、本当は言ったらだめなやつやったんやろな。
※ 案の定、のちに緑夢はそのことで絆星たちからボコボコにされる。

大人に「やってないよね?」と言われ「自分だけが罪を背負うんだよ」と言われ、絆星がどういう考えに至ったのかを思うとしんどいもいのがある。

◆判決
大きな裁判所とかではなく、裁判官もわかりやすく明確な言葉で絆星に説明とかをしている。
絆星の弁護側はまぁ、そりゃ弁護するよな。という感じでしっかりとお仕事をしている。とにかくやっとりません。
最後、被害者の親が陳述をしようとした時、絆星に退出が命じられて退出していく。
「なんで退出させるんですか!」と言う被害者父に「子どもが動揺したりしないようにです」みたいなのを言う裁判官を見ていて
(いやいやいや、動揺させればええやんけ)と思ってしまった自分はネットのあの書き込みと同じなんだろう。
その後被害者父が「きみは」みたいな感じで加害者に問いかける言葉を読み始めるが、そこに加害者はいない。
いるのは加害者の父母だけだ。読み始めてすぐに涙声になり、声が出せなくなる被害者父。
そりゃそうだよ、だって加害者を問いつめたくて書いてきたんだもの。それが相手に届きもしないってどんだけ悲しいことか。
その言葉を自身の背中に淡々と受ける絆星の母の表情は、あきらかに苛立ちと不満に満ちている。
「うちの子はやってません!」と今にも言い出しそうだった。

◆各夫婦の演技がすごい
加害者側夫婦。被害者側夫婦。どちらも演技がものすごい。
特に自分が苦しくなったのは、被害者の母親と父親。
声を殺してずっと泣いている母親は憎しみと苦悩に満ちていて、父親は悲しみと怒りを爆発させる。
最後の方に母親が淡々と言った「あなたは何を謝りたいの」という言葉が、少年にどれだけ突き刺さったか考える。

◆結局無罪
無罪になり、保護観察もなく、ふつうの生活に戻れることになった絆星とその家族。
ここまで見てると「胸くそ悪いわ、大人の都合で子どもの更正の機会を奪いやがった」という気持ちにもなるが……
問題はこの後だ。

◆私刑
無罪になったにも関わらず「やったんだろ」と責め立てるネット。世間と近所の空気。
家への投石や落書き、悪意のある張り紙。
無罪になったにも関わらずまともな生活はできない。
当然無罪なのでふつうに学校にも行くが、そこで同じクラスの男子とトラブルに。
クラスの男子の顔に樹の姿が重なり、殴りかかる絆星。
ほらもー!大人の思惑で「無いこと」にされた罪悪感の行く先が、トラウマみたいになっとるやないか!!!と思わずにはいられない。

そこで一つ疑問というか、思ったこと。
クラスでは別にいい子だったわけではない絆星グループ。
まともそうな子が多いクラスなのに、そこで絆星の素行の悪さが表出しなかったはずはない。
緑夢への露骨ないじめに関しても、誰も何も知らなかったわけでもない。
あれだけの粗々しさを見せる絆星を諫めたり、声を上げた人は誰もいなかったんだろうか。
そうなっていたら、母親がその素行の悪さを知ることもできたのになぁ。否定したとしても、それがあっての殺人であれば気持ちの持ち方も違うだろうに。
実際は殺人が起き、疑惑の生徒がいてもクラス変えもないわけで。
大人(母親など)が変わらない生活を望んだのかもしれないが、無理があるのでは……と感じた。

◆私刑(物理)
河原で知らない不良にボッコボコにされる絆星。
緑夢まで参加して絆星をボコる。
やめとけやめとけ。
結果的に入院するレベルのけがを負う。あんなに自分の強さを誇示しようとしていた絆星がずたぼろになる姿は、爽快でもあり辛くもある。

◆追い込まれて逃げる
まぁとにかくネットを中心とした誹謗中傷がすごい。
改めて裁判を求めると遺族が明確にすると、その訴状を受け取らないため、そして非難から逃れるための逃避行が始まる。
母親は「やってもいないのに、どうして私たちがこんな目に遭わないといけないの!」「逃げるなんていやよ!」と言っていたが、父親の説得と現実的に追い込まれていることもあり逃げることに。
住まいを変え、名前を変え学校にも行く絆星だが、何を思っていたのだろうか。
父親が「このまま、見つかるたびに逃げ続けるのか」などと言っていることから
事件が13歳、14歳になった誕生日を 映画終盤に住んでいた家で迎えたということは
11ヶ月以下の期間にすでに何回も引っ越していることになる。

◆新しい学校
あいさつ当番の委員長的男子。めっちゃわざとらしいいいキャラだなwww
前を通り過ぎたモモコ は無視するのに、その後に来たヨシアキ君(絆星)にはしっかりと名指しで挨拶をしている。
なお、そこに至るまで……絆星は、収集所に集まったゴミ袋を蹴りまくり蹴散らしている。
パーカーをかぶって、ポケットに手を突っ込んで荒々しくガンガン蹴りまくる。
うわあぁぁぁあああああ!!!
格好いいよーー!!! めちゃ青春じゃん!!!好きじゃーー格好いいよーー!!と思う自分。血がたぎる。
あれは、17歳以下に許された(許されない)神聖なアホ迷惑行為だよな。18歳以上はやっちゃだめなやつ。途端に寒くなる。
なお、現実に出会ったら映画の中でもいた出会いがしらのおっちゃんみたいになる。絶対。

◆いじめ
そんなカッケェ荒々しさを見せながら登校したら、モモコががっつり
いじめに遭っているのを目撃。
よくある展開なら「おいやめろよ!」みたいなことになりそうだが当然ならない!!!!!!!!!
おい、よしあき(絆星)さんを誰だと思ってんだよ、なんせ一人殺してんだぜ!という気持ちにもなる。
とにかく興味がない。どうでもいい。そんな感情がよく分かる表情、演出だった。

◆中学校とモモコ
逃避行で一気に遠い場所の遠いところに引っ越したのかと思ってたので(海の町っぽい印象を受けた)
皆がふつうに共通語をしゃべっているのに違和感を覚えていたんだが
意外と近いところに引っ越してたっぽいのが分かって驚いた。

ちょっとロリっぽい服を来ているモモコ。
中学校は徒歩通学が多く公立のようだったから、たぶん小学校から一緒の子もたくさんいたと思う。
その中でどうしていじめられることになったのか気になる。
演劇部の顧問と付き合っていたというのがクラスメイトから暴露されていたがその程度でいじめの対象になるんかな。
まぁいじめなんて、何がきっかけなのかなどほとんど意味を成さない議論なんだろうけども。

モモコのキャラクターはなんというか、今までリアルな人間が描かれてきた中で突然現れた創作のキャラクターっぽくて違和感を覚えてしまった。
ほとんど感情を外に出さないとか、14歳の割には心が強いとか、そのバックグラウンドを知らない限りは理解してあげられない。
世間と自分の過ちと信じるものと苦しみに雁字搦めになってもがいている登場人物の中で現れた、まるで答えを知っているような人物……。
そのモモコを考察すると以下だ。

ここからは予想でしかないが……モモコが演劇部の先生にセクハラをされていて、無理矢理キスされたとかは本当のことだったんじゃないか。
演劇部の先生は生徒からの信頼も厚く、逆に深い友達もいなかったモモコは本当の事を言っても信じてもらえないし、言えば言うほど孤立していく。
じゃあ何も言わなければ自分が傷つくこともないと否定もしなくなった結果、顧問の言い分は明確になっていく。
「無理矢理キスしたんじゃなくて付き合ってました。それどころか生徒に迫られたのは俺のほうです」くらいは言ってそうだ。モモコはもう疲れて否定もしない。
とはいえ学校も放置はできないので、先生は異動。そして残ったモモコにはねもはもない噂だけがついてまわる。

そんであのような子になりました、という。勝手な妄想で補完。

◆割り箸ボウガンを自作
このシーンすごいなと思った。
無かったことにされた自分の罪を確認するかのように、一心不乱に作成する。

◆そこに乱入するモモコ!
淡々とボウガン作りをアドバイス
すげーな、よくそんなアドバイスをよく知らん同級生にできるな。と思ったけど「ちょっと待て自分」と気づいた。
観客はそりゃ絆星の悪行を知っているからそう思うかもしれないが
モモコからしたら、ヨシアキ(絆星)くんはただ転入してきた男子生徒で、ちょっとワルいそいつの後をつけたらしょぼボウガン作ってた、というだけだ。
自分を知らないからこそ、相手に本音を漏らせるというモモコの気持ちも分かる。

◆よしあきくん
絆星の孤独と自分の孤独を重ねるようなモモコ。
もっと淡々としている子かと思ったら意外と絆星の後を付けたりとよくわからない。
あれはなんだ?恋なのか?逃げる者同士の嗅覚てきなもんなのか?
絆星の隠れ家で一緒にたばこを吸うシーンはなんかホッとしたな。
(あー絆星にも他人と居場所を共有するだけの心の場所はあったんだ)という安堵。
二人はなんとなく学校以外では一所にいるようになるけど……うーん感情がよくわからん。
あんな隠れ家に二人っきりでいたら、なんていうか……こう……フフ……下品なんですが……(略)ってならないですかね。
仮にも絆星は14歳なわけで……おそらく大人顔負けの「わるいこと」を他の子よりも見たりきいたりやったりしたかったのを考えると、そっち方向に熱がいかなかったのかも気になる。
(べつにそういうのを見せろいうわけではない)
彼らが性に対して意識が行かなかったと考えると途端に可愛く見えてくるのは自分だけだろうか。

◆ボクシング少女!!
いつものように赤いゴミ袋を蹴り上げ登校する絆星。
「なにしてるの」と声をかけてきたのは、めがね少女!
「なんだよ文句あんのかテメー」くらいの威圧で寄った絆星に対して、メガネ少女が腹?に一発拳をたたき込んだ!
なお早すぎて拳は見えていない!
腹を押さえて崩れ落ちる絆星。
そこまで絆星よりの目線だったはずの自分が「ざまぁー」と思ってしまったのにハッとした。

◆中学校「いじめの話し合い」
このシーンめっちゃ良かった!!!
なんていうか、ガチで話し合ってる感あってむずがゆさもありつつ、言っていることは意外と深くて聞き入ってしまった。
名前が出てきていない?ショートカットの女の子の意見や口調が好きだった。

そんな風に自分がホワホワしながら見てたら、突然「君はどう思うの、市川絆星くん!」と言う委員長男子!
どよめくクラス。「君は分かるよね、だってクラスメイトを殺してるもんね!」みたいなことを言いながらアキヨシが絆星だと暴露。
収集つかなくなるクラス。
絆星は無表情だ。見ている自分は(やめたれやめたれ)と思うわけだが、これも人によっては(いいぞやったれ)と思うのだろうか。
それが間違いなわけではないが、自分はどうしても絆星の心の底に寄り添いそうになる。

結局わーわーなってるクラスの中「市川絆星がいますって拡散するぞ!このボタン押したら拡散されるんだからな!」みたいなマウントを取る委員長男子。
うぇへへへwwww突然の小物感すげぇなwwww
でもなんかリアルなんだよなぁ。クラスのカーストトップで、自分への支持が嬉しい委員長男子。
「さすが!」ともてはやすクラスメイト。
なんでここで引いてる子一人もいないんだろう、と思ったけど、声に出さなくてもそりゃ殺人事件の犯人が同じクラスに転入してきたと思ったら衝撃だよな。
声がでかいやつらは否定的な人が多いだけで。
「ホーらボタン押しちゃうぞ~」とにやにやする委員長男子、煽る周囲。
そこで「やめなよ!」と叫ぶモモコ。モモコかっこいい!!
しかし委員長は「なんでだよ、こいつは人殺しなんだぞ!」とか説明する。
いや、これガチでモモコがいじめられてる対象なら、委員長男子も一瞥くれて「はぁ?」って言い捨てて無視しとけばいいんですよ(いじめの思考)
モモコにちゃんと対応している時点で、モモコはいじめられていなかったのではないかとすら思ってしまうのは歪んどるのでしょうか……。
で結局「付き合ってるんだ!」みたいなことも言われ、委員長男子のスマホを奪おうとするモモコともみ合いが始まる。
しかし押され転倒するモモコ。
それまで無表情で耐えていた絆星が立ち上がって、片手でいすを振り上げた。。
悲鳴があがるクラス、恐怖で動けない委員長男子。
優位にたったと思ってえらそうにしとったけども、結局暴力にはおびえるしかない委員長男子の浅さと子どもらしさがでる。
結果的に、このごたごたの中で絆星の情報は拡散されてしまう。

◆ 父ちゃん
家がばれたことで、遺族がやってきて訴状を渡される。遺族は、憎しみと苦しみでいっぱいいっぱい。
一方で、受け取る絆星の父親ももうボロボロだ。
こんなことになるたび学校が変わる絆星も絶対しんどいが、自分は父親の精神的苦痛を思うと滅茶苦茶しんどくなる。
比較的まともな精神をしていた父親が、逃げながら職を変え家族を養うことへのプレッシャーに耐えられなかったのは想像もつく。
結局妻と口論し、平手打ちをしてしまった父親は深夜に出て行ってしまう。
(このシーン、映画館のスクリーンが小さかったこともあり何が起こったのかちゃんと理解するのに時間がかかった)
これでより濃厚な絆で繋がった母子は、一層孤立していくことになるわけだ。

◆モモコとのひととき
あいかわらずいじめられているモモコは、牛乳を頭から掛けられてダッシュで逃げる。
逃げた先は絆星の家。学校に行っていない絆星はモモコに何かあったことを察して家へ入れる。
そんでお風呂を借りたモモコが借りた服は、ぶかぶかの絆星のヤンキージャージ!!
うおおおぉぉぉ彼ジャージじゃん!と思ったけど、これはかなり意外だった。
互いに依存するような濃厚な母子関係だが、そこに女子が入れるんや、と。
しかも息子の服を貸す程度の認識を持っている母親。めっちゃ意外。
女の子だから母親の簡単な服かなんかきせるのかと思ったけど。

そこから急速に近くなるモモコと絆星、そして母親の距離。母親めっちゃ嬉しそう。
3人でパイを焼く姿がとてもかわいい。
生地作りに中途半端に参加したせいで手を粉まみれにさせて行き場なさそうに手を開閉させる絆星。
絆星のへたくそさに「貸して」と言って参加するモモコ。
それを受け取ってこねこねする母親。
母親の笑顔を見てハッとする。この笑顔、冒頭で洗濯物を畳んだ絆星に見せた以来じゃないか……。
せつねぇ、たったこれだけのことが、この母親にとってどれだけの救いなんだろうか。
しかし一方で(いや、逃げてんじゃないよ! 遺族はそれどころじゃないよ!)という気持ちもある。

◆モモコの独白とキス
「みんな死んじゃえばいいのにって思ってた」
という告白があったわけだが、そこに至るまでの過去が前述した通りあまり分かっていないので
相変わらず自分の脳内で補完するといい感じに。
キスはモモコからやった割にはかわいい。
それを全く動じずに受ける絆星。かっけぇよ!!!!
ドゥフフ、拙者こういう接吻は不得手であるからして」みたいなのを言ってしまわないのがすげーよ!!!
経験ありなのかなどうなんかな!!前述してるけど謎さが増したわい!
硬派すぎてかっけぇ!!絆星さんシビあこ!!

◆母親の嘘
 樹を殺したときの帰宅時間は夜七時だった。
 しかし、弁護士に対して母親は六時に帰ってきたと嘘を吐く。そのことをずっと気にしていた絆星は「母さんも俺がやったと思ってるんだろ」と聞く。
 「絆星はやってない」(うろ覚え)と答える母親だが、たしかに絆星の言う通り「やってない」と信じているなら嘘を吐く必要などなかったはずだ。
 それでも嘘を吐いたのは、本当は絆星がやったということを分かっていたからだ。
 ただの愛情などではなく、その現実から目を背けていたことが露呈する。
 母親に愛されていることを感じながら、それでも信じられていないと思っていた絆星の気持ちはいかばかりだろう。

◆逃避行
モモコに「謝らないと」と言われ、自分を見つめ直して遺族に謝罪することを決心する絆星。
二人で早朝に町を出る。頭を寄せ合い電車で寝て「手、繋いでほしいんだけど」と言う絆星の露出した不安が孤独感をあおる。
この手つなぎねだりは見てて安堵する部分と、逆に今まで強さを誇示してた絆星の糸が切れて不安定に(よく言えばまともに)なったのを感じた。
なんか、この時の二人がすごくきらきらしてんだよな。
未来を感じるというか、ウマく行けば許されてふつうに生きられるんじゃないかという期待が二人からあふれ出ている。

◆起きたら絆星がいない!!
母親パニック!絆星の名を叫びながら探し回る!めちゃダッシュ
母ちゃん若々しくてかっこいい!

◆謝罪
遺族宅に到着するが、そこには様々な落書きがされている。
ポストからはみ出るほど詰められたチラシ(嫌がらせも入ってるだろう)。
それまで加害者の生活が一変したという目線で見ていた観客は久々に被害者のことを思い出す。
加害者が逃げている間、被害者遺族は謂われのない中傷やいやがらせなどにも耐えていた。
さっきまで、少年たちと一所に微かな未来を夢見ていた自分に襲い来る不安がすごい。

◆対面
朝早く、ピンポンすると父親が出てくる。
始めぽかんとした様子なのに、胸ぐらをつかんで第一声「帰れよ!」から始まるのが辛かった。
その顔を前に言いたかったことは、判決が出る前に紙に書いていたことがすべてのはずだ。
それを本人の耳に入れる機会も与えられず、認められず罪を償うこともなく逃げ回られてどれだけ苦しかっただろう。
あれほど憎いと思っていた顔を前にしたのに溢れてくるのは、どんな面下げて自宅の前に立ってやがんだという気持ちに違いない。
「謝りに来ました」
この言葉で涙と笑いが出てくる被害者父。そりゃそうだ……。もう自分の気持ちはどっちに向いてんのか分からなくなる。
その後家に上げられ、位牌を前に線香を上げる絆星。
14歳なのにちゃんとお線香しててすごい……(バカの感想)。家ではいい子だったわけだから、もしかしたら何かしらの機会で作法を知った可能性もあるよな。
手を合わせる絆星に向かって、被害者母が「あなたは何を謝りたいの?」と聞く。
 これ、真理ですよ。
 それまで加害者よりで見ていた自分もハッとする。
 だって、いつの間にか自分は絆星が許されることを望んでしまっていたからだ。モモコと束の間の幸せと思えるような姿を見せた少年に思いを重ねないわけはなかった。
 そんな自分に向けられた「あなたは何に謝っているの?」という言葉。
 そうだ、絆星は一度も樹に対して謝罪の気持ちを吐露したことはない。謝るのは樹や遺族のためではなく、自分のためだということが浸食するように心を覆っていく。

◆怒り
 自分の謝罪の気持ちを断られた絆星は苛立ち、モモコを振り返ることもなく歩き出す。
 もうこの態度が、すでに「謝罪は自分のためであった」ことを物語っている。
「俺は反省してるのに! わざわざ謝りに来てやったのに!」とでも言いだしそうだ。
 怒りが溢れ、樹の死亡現場にされている献花などを蹴散らす。
 そうして、たまたまボウガンで遊んでいた不良たち(半ぐれ)を見つけて殴りかかる。
 半殺しレベルでボコボコにするのを「やめて!死んじゃうよ!」と止めるモモコだが、完全に頭に血が上っている絆星は聞き入れない。

 さてここで自分は空気を読まず、知らない不良に対して絆星がそこまで激昂する理由を考えてみた(複合型の怒りかな?)
 ・自分の謝罪が受け入れられなかった単なる苛立ち
 ・ボウガンっていうアイテムを見たから→自分の人生を狂わせるきっかけになったアイテム
 ・過去の自分たちを見ているようでむかついた。
 という感じなのかなぁ。もっと深い感情を読み取れるようになりたい。

 そしてこういう喧嘩シーン全てで感じたのが、仲間があまりにも薄情であるということ。
 ボス格がボコボコにされてても、止めることもない。
 演出というのもあるとは思うけど、それが表現するのは「チームとしての不良」ではなく「ただの個々があつまった集団」という感じ。
 仲間を大事に思うという感情も見当たらない。うーん。人間関係の薄さというか、そういうのがあるんかな。

◆トドメ
 倒れた仲間を起き上がらせ、逃げようとするその背中にボウガンを向ける絆星。
 そこにモモコが割って入る。発射されたボウガンの矢は――!!
 ……っていう、どえらい冷や冷やしたシーンだった。
 このひやひや感、覚えがあると思ったら、はじめに樹へボウガンを向けたシーンで感じた恐怖と一緒だ。
 たった一人の少年が引き金を引いただけで、人の命が失われる。比率く瞬間をまた目の当たりにするのはとても恐ろしかった。

◆探し回る母親
 朝起きてから、夕方になるまで走り回って探し続ける。
 めっちゃアスリート!走り方もガチでかっこいい!
 そのガチさがガチすぎて、逆に母親のパニックが見えて良かった。

◆モモコを置いて逃げ出した絆星、走る母親
 ダッシュで河川敷を駆けていく。
 手に持ったボウガンを振り回し、乾燥した地面に転倒しても立ち止まらず駆け続ける。
 行き場の無い不安や怒りがそこに詰まっている。
 自分に対する怒り、遺族に対する怒り、死んだ樹に対する怒り、自分を裏切った元クラスメイトへの怒り、学校への怒り、現クラスメイトへの怒り、世間への怒り、親への怒り。
 そして自分が思ったのは「謝らないと」と謝罪を進めたモモコへの怒り。
 あんな言葉に乗らずに放っておけば良かったとでも思っていそうな身勝手な荒々しさ。
 せっかく新たな道筋が見えそうだったのに、すべてがぶち壊し。
 全てがむかつく、そんな感情が見えた気がした。

◆襲撃
 ネットで執拗に絆星一家を追っていた配信者が絆星の母親を襲撃。なお逮捕。
 夜に帰ってきた絆星は、家の敷地の中でぐったりと倒れる母親に駆け寄り抱きしめる。
 虐められ傷ついた幼少期の絆星を守った母親のように、今度は母親のことを心配する絆星。
 それは互いしか守る、守られる存在が無いという、より一層暗く底の無い沼だ。
 襲撃にあったことは一気にネットやマスコミに広まり、SNSなどでは襲撃した配信者を「よくやった」と褒めたたえる。
 二人の孤独はより深くなる。

◆終わり
 頭にガーゼを着け、痛々しいネットを被った母親とお茶をしにきている絆星。
 かなり爽やかな雰囲気にかわり、遠くの席にいた赤ちゃんに笑顔で手を振っている。
 頭が膨れて死ぬ夢を見たというのを楽しそうに語る絆星は、少し大人っぽくなった風貌とは違いあまりにも子供らしい。
 今までの騒動が嘘だったかのように穏やかな時間が流れている。
 やたらと「胸糞」と評価される終わりのようだが、本当にそうだろうか?(そうなのかもしれないけど)
 母親が襲撃され重傷を負ったことで私刑は完遂され、加害者だった家族は「世間の被害者」にもなった。
 結果的に世間の留飲が一気に下がったのではないだろうか。
 でないと、あそこまで穏やかに笑い合える状態までいけるはずがないと思う。
 ただ、彼らがすっきりきっぱりと過去を忘れているはずもなく、意識をしながらもそこを見ないように必死で生きていくんだろう。
 そして、住所が割れている限りは絶対に訴訟がある。逃げられるわけもない。

**********************************
★★★★☆ ほし、よっちゅ!

総評:「ぜんぜん許されてない」

本当に見て良かった。カメラワークとかも好きだった。
風景をきっちり撮っているからこそ理解できる心情というか、無駄に語らせないから情景や俳優の目や演技がしっかりしているんだろうなぁ。
何が正解かなど分からないとは言わない。もう正解は分かっている。
「ちゃんと罪を償わせてやれば良かったのに」という気持ちでいっぱい。
大人の勝手な思惑で、加害者も被害者もすべてが苦しむことになってしまったという大人のクズ作品だ。

SNSでは最終的に「胸糞」と思っている人が多い。
逆張りでもなんでもなく、自分は最後のシーンに爽やかさと前向きさを感じた。
それでもついて回る黒い影に、彼らが一生怯えながら生きないといけないことを考えると胸糞でもなんでもなくないか??

…とか書いてたら、自分はやたらと加害者側の肩を持っているのではないかと自問しはじめた。
くそ、やっぱり答えが出ねぇわ!!!

見てよかったですほんとに。