下衆なマニヤの有神論

小説を書き続け(途中絶筆したが)十云年、自分の力が如何程のものか試したい。

【日常】職場が魔境だった(という創作)

数年前。今と同じ会社だが、自分は違う部署にいた。
突然思いも寄らない所に転勤を命ぜられた。
前任者が突然辞めたため、某修羅の國で楽しく生きていた自分に白羽の矢が立ったと思われる。
知らない土地の知らない業務(今までやったことの応用含む)をやることになり、昇進はしたので一応栄転だったわけだが不安ばかりだった。

新上司(女性)に連絡をしたところ、新居は会社近くにかまえろと指示される。
さすがに高いが、そこそこの位置で探すしかないためできるだけ近くの物件を探す。


着任早々、前任者が辞めたのではなく、二ヶ月前に失踪していたことを知る。
それを、直属の部下に軽い笑い話として聞かされた。
着任前に前部署で上司から「色々あるだろうけど無理はするな、辛かったら帰ってこい」と散々言われていた理由が徐々に明らかになっていく。

前任者は数ヶ月勤務しただけで失踪していた。
自分の新しい女上司もその話を当然知っており、本社から色々聞き取りがあったと思われる。
さすがに部下ほどそれに対して軽い気持ちではなかったようだが、自分と話していた時に「あの人は弱かったから」と斬って捨てた。


その「失踪した」立ち位置になった自分は、早々に部下からの突き上げにあった。
はっきりと「俺らがやってきたことに口出さんといてください」「俺らがちょっと言っただけで前任者は凹んでた」「芥文亭さんの立場の人がいなくても俺らやっていけるんで」
ドラマかと思うような舐めた発言を遠慮なく目上にできる環境を生んだ環境と上司がどんな奴かと思っていたが、一緒に仕事をしていてほんとうに糞だったと痛感する。

デスク(自分の隣)で何をやっているかと思ったら、スマホゲー。

お気に入りの男性部下数名だけを釣れて夜の繁華街に消える。

「○○くん、約束してた焼き肉やけどぉー、一頭買いの店いこーよー」「えーほんまに焼き肉えーんすかぁ」みたいなくだらん会話が就業中に飛び交う。

自分を会社近くに住まわせたのは、就業外でも呼び出せるようにするのが目的だった。

仕事の成果に対して、出来不出来を一切言及しない。
なんとなく形になっていたらそれで良い。
だから、そこで働く自分の直属部下たちは体裁だけ整えることだけに関して秀でていた。
だから、真面目にやろうとする人はひたすら潰され、迎合してやりくりできる要領のよい者、黙って必要とされることだけをする者だけが残ってきた。



今まで自分が学んできたこと、やってきた仕事はなんだったんだろうかという虚無感と、上司が糞ならもうどうしようもないという諦めが自分を苛んだ。
結果、着任後四ヶ月で自分は辞表を書いた。
よし、これをくそ上司について渡して辞めるぞとかばんに忍ばせ頃合を伺っていたところ突如その糞上司の転勤が決まった。


寝耳に水ながら、自分は最高に喜んだ。
新しい上司がどんな人かは知らなかったが、それでも糞上司がいなくなることがまずは心から喜ばしいことだった。

新しく着任した直属上司(男性)は「他部署では当たり前にしていること、しないといけないこと」ができていないと自分を叱責してきた。
自分は頭を垂れて謝罪し改善を約束する。
下げた頭の下で、涙がでた。

それは怒られたからとか悔しいとかそんな思いではない。
喜びだ。
やっとまともな仕事が求められてきたという、それに着手できるという喜びだ!!


上司の指示という後ろ盾もあり自分は動き始めたが、さすがにがっちりとこびりついた糞上司の流れは変わらなかった。
自分は特に何の報告もしなかったが、見かねたのか上司が増長した部下を戒めた。
端から聞いていてもごく当たり前の、大人として当然の話だった。
しかし彼らは思いも寄らない反応をした。
「いいんすか、俺らにそんなこと言って!」
「本社に言いますよ!」
それを聞いた上司は「いいぞ、言いたければ言え!お前が職務遂行ができん理由もはっきり伝えとけ!」と言い放った。


結果、増長していた部下たちはボス的立場の奴からじりじりと離れていき、まともに仕事するようになった。
ボス的立場のやつは啖呵を切ったこともあり仕事を辞めた。



そのことを突然思い出してこうやって書いたのは
先日出張で会議に参加したとき糞上司がおり、親しげに話しかけられたからだ。
「今なにされてるんですか」と聞いたら、定年退職して監査部におんねん~」と言われ
自分はまぁ、ほんとに、口から心臓でるかと思ったくらい驚いた。

自分と一緒にその人が働いていたのはそんなに昔じゃないはずだ。
男性部下とキャッキャウフフをしていたあの姿は四十代前半の女性といったところだった。
それが、あのときすでに五十代後半だったとは……くそくそびっくり、まじでびっくり。
五十代後半なのにあの仕事っぷりでよくいままで(略)

魔境じゃ……わい職場は魔境なんじゃ……




という創作。